インドネシアジャカルタ最強駐在員・坂井師匠の体験エッセイ

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第97記 2007年10月1日

自宅前に見知らぬ男性が我が家に向かって立っている。なにやら大きなノートを広げて作業をしているようだが一体なんであろう。我が家をスケッチする奇特な画家?そんな訳はあるまい。気になって私が玄関を出ると、その男性がこちらに向かってきて説明してくれた。「地図を作っています」聞くと大手地図メーカーのスタッフだと言う。なるほど、住居地図更新の作業をしていたのか。大きなノートとは、昨年の地図であった。それと比較していたのである。一年に一度更新するらしく、今の地形や住居の状況は来年になってから地図に反映すると彼は説明してくれた。
 
しかし見知らぬ人が家の前で長時間居られると気持ちがよくないものである。何をしているかが分からなければなおさら。そうか、見知らぬ人だから気持ち悪いのであるから、見知らぬ人をゼロにすればイイ。地球上の全員と知り合いになればこんな心配は要らないであろう。
 
思いだした。インドネシア滞在の頃にも、同様に「玄関前に人」の経験がある。そのときは確か暑い日であった。いや、インドネシア、いつも暑いのであるが、その日は特に日差しも強く、当時の我が家の玄関前に現れた男性2人組は、きっと日陰で休もうとして我が家の軒下に移動したのか、最初はそう思った。しかし、小さいながらも玄関前の敷地内にある庭を通り越して他人の建物の軒下に入ってくる2人。日中堂々と、他人の家に何事か、住居不法侵入である。もしや怪しい人たちか?少し不安になってきた。ところが、彼らはこちらをうかがう様子でもなく、家の中を覗き込んだりする動作があるわけでもない。かと言って、庭の草抜きを始めてくれる訳でも軒下のタイルを掃除し始めてくれる訳でもない。しばらくすると、その男性2人組は、カバンから何やら取り出した。「おお、ちょっとまて、何を取り出すつもりか。棒か?刃物か?ガラスを割ろうとするのか?」家の中から外を見ている私は、ますます緊張が高まって来た。とすると、その彼らがかばんから取り出したものとは、、、なんと「じゅうたん」であった。礼拝用のじゅうたん。つまり、彼らは我が家の軒下に「お祈りをするため」に侵入して来たのであった。
 
イスラム教徒の成年男女にとっての5つの義務(五行)はwajib(ワジブ)と呼ばれる。そのうちの1つに、1日5回の聖地メッカの方向に向かっての礼拝、がある。太陽の動きによってその礼拝時間帯が決まるが、外で作業をしていたこの男性2人にはちょうど我が家の軒下がお祈りを行うのに適した場所であったということだろう。
 
かばんからナイフが出て来たらどうしよう、と思っていた自分であるから、彼らが集中して礼拝を始めたことで、ホッとしてそのまま声をかけなかった。そして礼拝が終わると2人はちゃんと片付けて我が家の庭から出て行った。我が家が「礼拝に適した場所」として選ばれた、そう誇りに思うことにしよう。
 
かと言って、毎日5回礼拝に来られると困るが。。。そんなことを思ったものだ。
 
帰国者たちは今日も、人々の間にも住居の間にも境界線が存在するが、それらは区別や差別を引き起こすものであっては決してならない、むしろその存在を正しく意識して相互理解をしよう、と心するのであった。

第96記 2007年9月1日

この夏、ジェイピープル編集長のハル一家が日本の我が家に遊びに来てくれた。彼と日本で会うのは2度目。彼の家族とは、インドネシアではよく一緒に行動したこともあったものの、日本国内で会うのは初めてであった。
 
久しぶりの生のインドネシア人?に触れ、久しぶりの生のインドネシア語に触れた。社寺仏閣を少し案内し、そして人ごみの「デパ地下」にも出かけた。甘いもの、辛いもの、さまざまな試供品を食すことのできるデパ地下。ハル一家にはこの様子、どう映ったであろうか。
 
試食できる売り場。ジャカルタ市内のデパート、ショッピングセンター、そしてスーパーマーケットも今や同様のスタイルが定着している。しかしその中身は少し異なっていたことと思う。目の前で調理して「一つどうぞ」と揚げ物を差し出してくれる店員さん、一口サイズに小さく切られて器に盛られた甘いお菓子。つまようじが刺された上に、そのゴミ箱まで用意されている。ところが、一つつまもうと思うと、実は本物の横には食べられない「サンプル」が置かれ、思わず口に放り込むところだった。サンプル、それはロウで作られた、あの本物そっくりの見本のことである。おそらくジャカルタ市内のデパ地下と決定的にちがうのは、このサンプル品の種類の豊富さとその質であろうか。
 
よくレストランの入り口などにある、ラーメンやカレーライスのロウで作られたメニュー見本、その名称は「食品サンプル」と呼ぶらしい。その完成度は、普段の町中で見慣れた日本に住む人々には気付きにくいかもしれないが、世界一のレベルだと思う。それもそのはず、これは日本生まれの日本独特の「文化」だ。またその歴史は古く、1930年代に教材として使われていたロウ製の食品模型からの起源らしい。現在では直射日光に弱いロウ製に代わり、耐久性や詳細表現のために、プラスチックやシリコンラバーが使われているそうで、これは日本の「おみやげ品」として選べる逸品だ!
 
そんな「本物に近いサンプル」が「本物」の横に並べてあった日本のデパ地下。思わず一つ手に取って味見してみたくなるのは、元来のいやしい性格のせいか。
 
帰国者たちは今日も、本物と偽物、現実と夢うつつを行ったり来たりしながら、おいしそうなモノが目の前に現れるとつい飛びつく貪欲さは忘れないのであった。
第95記 2007年8月1日

自転車の空気入れポンプを買った。自転車屋さんでなく、いわゆるホームセンターなるところで購入したのだが、確かに値段は「安い」。そして壊れ「やすい」。
 
このポンプ、どういう品質であったかと言うと、空気を溜めるタンク部分(金属製)とホース(ゴムと布製)のつなぎ目が、箱から製品を取り出した直後に折れてしまったのである。よく見ると、そのつなぎ目はプラスチック成型品。ん?空気を入れる際に、このホースはクネクネ動き回るわけだから、こういう可動部分とはしっかりした強固な作りをしていてしかるべきではないか。ところが、この製品のその部分はプラスチックでできていたのである。これでは折れても仕方がない。
で、早速商品交換に出向いた。
 
そのホームセンターで店員に折れた部分を見せて説明しながら、私は全く同じ商品の別の在庫を確認した。すると、別の商品のその部分は、金属製でできているではないか。ほかの箱も開けてみた。それも同じく金属製。棚に残っている全てを確認したが、すべてそのつなぎ目は金属製であった。あらま、私はババを引いたのか。
 
100個に1個くらいプラスチック製で安く作っておき、うまくいけば客も気付かず購入し、うまくいけば1年くらいそのまま使用でき、うまくいけばその頃ちょうど壊れて、うまくいけば「あ~壊れた、1年使ったからこんなもんか」と買い替え動機につながる、、、そんな思惑で製造されたこの空気入れ。。。というわけではないであろう。おそらく以前はプラスチック素材であったこの部分、壊れやすいので金属素材に途中で仕様が変更された、ところが、旧タイプの製品が回収されずにまだ在庫で出回っていた、それをたまたま私が購入した、こういうことであろう。最初から設計ミスと言えばそうであるし、回収できなかったことは管理ミスかもしれない。最終的に明らかなことは、やっぱり私はババをひいたこと、か。たかだか空気入れを買っただけ、たかがこれだけの動作だが、話題になってしまうのがホームセンターでの買い物。
 
他にもある。基準線に合わせて何枚もの紙を一気に切断できるはずなのに、その基準がずれているので、まっすぐ切れない「紙切り」。当然水に濡れることを想定して設計されているはずと誰もが思うのに、一回使うと内部まで水が入り込んで使えなくなる「電動歯ブラシ」。金属製の骨くみの仕上げがあまりに鋭利なままなので、布の部分に突き刺さってたくさん穴のあいている「雨傘」。この傘は、閉じた時の柄の金属部分も鋭利だったために、ロック機構が効かず、数回使っているうちに「勝手に開く」傘となった。。。
 
さて、これらを「最近のモノは安かろう悪かろう、品質が落ちてきた」とみるか、「そんな安物ばかり買うからだ」とみるか。
 
インドネシアでのことを思いだした。ある程度そのモノの機能を理解した上で買う時はまだしも、初めての購入の時は、どれが正しいのか分からないこともある。だから、まず「試す」のである。買う前に、お金を払う前に「試す」のである。インドネシア語で「coba(チョバ)」。やってみること。そして納得して次の動作に移る。
 
電気屋で、電球が切れてないか試してから購入するのは当然、八百屋でも果物は一つ手に取って食べてみて、味を確認してから購入する。予め用意されている試供品を試すのではなく、陳列されている中から自分で選んで手に取り、「試す」のである。インドネシア赴任当時は驚いたものだが、逆に言うと、今の日本は「警戒心」がなさ過ぎる。
 
そうか、自転車の空気入れポンプも、購入前に自転車に空気入れてみてから買う?歯ブラシは、レジの前で実際に歯を磨いてから買う?時間はかかるが、こういう動作によって、求めているモノの機能を知り仕様を理解し、そして価値そのものも確認できるのではないか。この動作、無駄ではないと思う。大げさではあるが、自分がこれから保有するモノになるのであるから、自分の財産はよく知っておいて損はないだろう。
 
帰国者たちは今日も、安全と品質に自信があると思われていた日本国内で、財産を含めた自分そのものを自ら知り、自ら守るためにも、自己防衛と共存して発展を目指すのであった。
第94記 2007年7月1日

インドネシアに旅行された方なら、きっと一度はあの香りを体験されたはず。kretek(クレテッ)、つまり丁字(ちょうじ)入りタバコのにおいである。丁字(クローブ)はインドネシア語ではcengkeh(チェンケ)と呼ばれ、その原産はインドネシア。旧2万ルピア札の絵柄にも使われていた、香辛料の中でも代表的な一つである。kretekそのものや煙からでる甘ったるい香りが大きな特徴で、20年程以前には日本国内でも流行した。喫煙時に火花のようにパチパチと音を立てて燃えることから、若者に特に受けが良かった記憶がある。当時は「ガラム」と呼んでいた。
 
ガラム、とは、おそらくgudang garam(グダン・ガラム)から取ったのであろう。gudang garamは直訳すると「塩の倉庫」、その正体はkretekタバコの代表ブランドの一つである。そのgudang garamがこのたび、なんと初の直営店を大阪アメリカ村にオープンすることになったそうだ。もちろん、kretekの試喫スペースが設けられ、Tシャツや喫煙器具、アクセサリなどオリジナルグッズも開発販売しているらしい。
 
実は大阪のアメリカ村は、90年代中頃から中高生向けの街未成年が多く集まる街となり、20歳代以上の若者層は2000年前後から隣接する地域に流れてしまっていると聞く。ということは、村の多くは未成年者?そこでタバコのショップをオープンするとは、すごいもくろみである。
 
禁煙、嫌煙が浸透してきている最近にあって、そんなことは「ガラム」ファンには無関係なのかもしれない。ガラムの好きな人はガラムのあるところに集まる。「バリ島フリーク」もそうなのか、インドネシアから生まれた神秘に熱狂してしまう人たちの気持ちはよく理解できる。それほど、インドネシアという国には不思議ともいえるパワーが存在するのを感じるからである。ガラム、バリ島、バテック、ガムラン、インドネシア歌謡曲にインドネシア料理、、、狂ったようにこれらにハマった日本人駐在員の友人たちを多く見てきた。彼らはいまも狂っているだろうか。。。
 
帰国者たちは今日も、ますます広がる日イ間の大きな交流を体感しながら、共にその地で暮らしインドネシアに浸った友人たちを思いだし、インドネシアの神秘性に思いをめぐらせるのであった。

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